のび太くんがなりたかったもの①

先日、日本公認心理師学会で『公認心理師はいかに自分のバージョンアップをはかるのか』というテーマで発表したことをまとめようと思って、一度は記事にしてみたけど個人的に気に入らず、ボツ原稿となりまして(笑)。

でも何かの形にはしたいと思って。うむむ、と考えているうちに、ああそうか、ここは自分の責任で書く場なので、学会発表した内容にこだわらず、自分の思った通りに内から湧いてくることを書きたいように書けばいいのか、と気づきました。

ということで、僕が心理学を学んできてカウンセラーになって、今に至るまでの道のり(?)を、これから思うままに書いていこうと思います。多分長くなるのでちょっとずつ書きますね。

お役立ち情報とかは全くない(汗)ので、そのつもりで読んでください。

さてさて、話をまず大学受験に遡ってみることにする。

え、そこから(笑)?

そしていつ?

そうだな。スピッツが『ロビンソン』をヒットさせブレイクしたその年に、大学受験に失敗した僕は浪人生となった。

桜の舞う4月、名古屋の某予備校の5階の席に座っていた。

知り合いが誰もいないその教室。

とにかく花粉症の症状が今よりも辛くて、鼻水が出まくるので鼻をかみ過ぎて鼻の下がガビガビに。いっそ鼻をもいで洗ってやろうかと、本気で思った。書くまでもないが、当然のごとく目も痒みで大分やられていた。

何で大学に行くのか。

あまりその意味もよく分かっておらず。

ポツンと座って、窓の外を眺める。

高校生の時、数学がかろうじて好きだったから、経済学部?経営学部?とか考えていたけど、明確な目標だったわけでもなく。

何がやりたいんだか、何を学びたいんだか。

どう動けばいいのか、これからどこに向かえばいいのか。

誰も答えを知らない。教えてなどくれない。

それでも、志望校を紙に書く。適当に。

現役で大学に受かった友人からは時々連絡が来た。高3の時に付き合っていた彼女からも、時々手紙が届いた。

文末にはいつも『かしこ』と書いてある。

可愛い丸い文字を読んで、ホッとして、胸の奥が疼いて、切ないような懐かしいような気持ちになる。

皆、僕には気を遣ってくれる。ありがたい。

でも、隠していても『大学って楽しい』ってのが、漏れ出て伝わってくる。

いいなー。

今、僕には何にもない。

空っぽ。

朝、名古屋駅南口を出て、見上げた空。澄み渡った痛いくらいの青。

ああ、今日も授業が詰まっている。


ある時、予備校の先生がふと言った。「今の君たちにはここに何が入る?」

『人生は〇〇の連続である』

この〇〇には何が入っても良いらしい。

言葉を入れてみると、その時の自分の状態が分かるというもの。

その先生は、「僕は『選択』という言葉が入るかな」と言った。

ふーん、なるほど。そうなんだ。

僕にはサラッと『苦難』という言葉が頭に浮かんでいた。

暗っ。

こりゃうっかり人には言えないな(苦笑)。

それでも春から夏へ、時間は容赦なく過ぎる。時折、模擬試験を受ける。

波はあるけれど、そこそこの成績。

先生も褒めてくれる。

でも、僕には何もない。

将来、どこに向かっていくのだろう。

当時、ロビンソンが僕の頭の中ではよく流れていた。

『新しい季節は なぜかせつない日々で 河原の道を自転車で 走る君を追いかけた』

自分の事すらよく分からないや。

このままやりたいことも見つからず、何となく大学に行って、何となく働くんだろうか。

人間て何だろうか。何のために生きているんだろうか。

結局、人は死ぬじゃないか。

バカバカしい。頑張る先も見えてないのに走ってる。

時間や周りに流されて。

こうやって人は埋もれていくのかもしれないな・・。

ただただ空虚感。

予備校の帰りの電車から見た三河の田んぼの風景。

風になびく稲穂。遠くの山々。穏やかに流れる川。豊かな緑。

黙々と列車は走る。良いも悪いもない。ただ黙々と。

その時だけは、僕は癒された。

そうして、気づけば名古屋は殺人的な蒸し暑い夏に。

一方で、予備校のギンギンに冷えた教室。

暑さから避難したその部屋で、大学の学部一覧のようなリストを眺める。

ふーん、大学には色んな学部・学科があるんだな・・。

経済学部とか経営学部とか考えてたけど、他の方向性もありなのかな。

いやでも、受験科目の構成が変わると、また大変だしな。うーん。ブツブツ・・。

何て考えているうちに、ふと、これまで見たことのない学科が目に入った。

『心理学科?・・・心理学?』。

ん?なんだ!?

シンリガク?

心理・・学!?

心を・・・学ぶ??

なんだそれ?

脳内にビビッと電気が走る。

冷えた教室から暑い外に出る。

でも、暑さは感じない。

本屋に向かう。とにかく情報だ、情報だ。

欲しい、欲しい、情報が欲しい。

苦しくて、先が見えなくて。

どう生きればいいのか、何を目指せばいいのか。

じわじわと沼にハマっていくような日々。

それでも誰かが救ってくれるわけでもない。

でも。

何かが『カチッ』とはまったような。

暗いトンネルの先に光が見えたような。

とにかく説明のつかない高揚した感じ。

真夏の夜。夢中になって、それを調べた。

どうやら心理学という学問があって、その先に臨床心理士という職業があるらしいと知る。

『リンショウ・・・シンリシ!?』。

心という謎。

自分のことをもっと知りたくて、探求したくて。

何かに飢えていた。

どこを目指せばいいのか分からないから、動きたくても動き出せない。

そうしているうちに、動くことすら嫌になって。

ああもう、めんどくさ。めんどくさ。

人生は苦難の連続だ。

と思ってた。

でも、もしかしたら、もしかしたら見つけたのかもしれない。

大切なモノを。

これから探求していくモノを。

真夏の夜、僕は進路をロックオンした。


季節は秋から冬へ。

スイッチが入った僕は、人生で最も勉強した時期を過ごす。

朝から晩まで予備校。勉強して、勉強して、お昼食べて、勉強して、勉強して、勉強する。

今じゃとても出来ない。

途中、スランプの時期はもちろんあった。

何だか焦りが先に立つ。不安で心配でたまらなくなって、初めてストレスが理由で熱を出した。

現役生が伸びてくる時期。浪人生は成績の伸びが鈍る。下手をすると点数が下がる。

人は弱い。

どれだけ意志を強く持ったとして、すぐにへこたれる。

歯を食いしばって勉強をする。

どうやら心理学は人気らしく、同じ大学の他の学科と比べ、心理学科は偏差値が高くなるのだ。

そかー、ま、いいさいいさ。

どうせ人生は『苦難』の連続だ。

知ってる知ってるそんなの、はははは。

と訳の分からない考えで自分の不安を紛らわせる。

新しい年を迎える。

苦手だった物理を徹底的に鍛え、センター試験(今で言う大学入学共通テスト)では奇跡が起きる。

得意科目の地理は順調。

英語、数学、国語もまずまずだ。

予備校の先生からは、「志望大学に受かりそうな人に前もって内々にお願いしているんだけど」と打診がきた。

受かったら新聞の予備校の広告に顔写真を掲載させてもらっても良いか?とのこと。

もちろんOKだ。

受かるつもりだし、そのつもりでやってる。

いざ、二次試験(個別試験)。

そして、受験というのは水物。

どれだけ準備をしても、想定外の事態は起きる。

望んだ結果にはならなかった。

人にはそれぞれ夢があって。

それでも人生は『苦難』の連続だ。

全部が全部、叶うわけじゃない。

でも、ぶち当たった壁の前で嘆くのは、もうやめだ。

実際のところ、大学がどこか何て、どうでもいい。

本当に大切なのは、自分がどうあるか。

何を見つけ、何を残し、何を伝えていくか、だ。

僕は目指す。この道の先を。

誰かが悩んで、先のことが見えなくなったとき、そんな時にどうしたら良いのか。

その答えが、心理学にはある。

かもしれない・・。

あの『苦難』の中にいた時に、欲しかったもの。

それを誰かにあげられるような、そんな人になりたい。

この気持ち、無くさないように。

決して無くさないように。

僕は弱い。とても弱い。

すぐに逃げたくなる。

でも、僕には使命がある。もう決めたんだ。

だから強い。

まだ自信はないけど、そうありたい。

3月、住み慣れた故郷を離れる。

もうここには戻らないかもしれない、とどこかで思う。

旅立ち。

夢。

未来。

高速道路を降りて、しばらくすると富士山が見えてくる。

そのまま富士山の見える方角に向かって走る。大きいな・・。

ああ、自分の存在って小さいんだな・・。

そうかそうか。

僕はまだ人生のスタートラインにも立っていないんだ。

ただただワクワクして、希望に燃えてはいるけれど。

まだ力なんてないし、親の脛をかじっていかなければ生きていけないし、先の事なんて分からないけど、いつかは自分で道を創るんだ。

4月、思いだけは力強く、着慣れていないスーツを着た僕は、静岡にいた。

(2話に続く・・何か、長くなりそう・笑)

“のび太くんがなりたかったもの①” への12件の返信

  1. ずっとブログ読ませてもらってます。

    題名から、ん?今回なんか違う?って思ったのですが、文章の感じもいつもと少し違って、小説(?)みたいで、おもしろく読み進めました!

    先生にもこんな時代があったんですね〜

    若かりし時の先生くんがこれからどうなるか、続きが楽しみです!

    1. >おまつり金魚さん

      コメントありがとうございます!

      いつもと違う感じで書いてみたのですが、どっちかと言うと、こういう書き方の方が本来の自分っぽいとも思ったり(笑)。

      まだ本編に全然入れていないのですが(汗)、マイペースで書いていこうかなと思います。

      今度ともどうぞよろしくお願いいたします!

  2. ブログのアップいつも楽しみに拝見しております。

    現在の完成された先生の印象しかなかったので、若芽の出る前のように土の中でもがいているような、「苦難」の中の先生の過去の姿に触れて、私ももう少しもがいみようかなと思いました。

    (私はもうそんなに若くないですが…何歳からでも、もがくうちにカチッとはまる瞬間があると信じたいです…)

    次のブログも楽しみにしております。

    1. >たけしさん

      ブログ読んでいただけて、またコメントもありがとうございます!

      カウンセリングを通して見える私と、色々と悩みながらもがいている私と。両方あって、私、なんですよね。

      ブログの中では、私は自分のことを『僕』と呼んでいます。

      当時の自分に戻ると自然と呼び方がそうなってしまって、そうやって書いていると、今の『私』の中にも『僕』が生きていたんだな、と思えます。

      若かりし頃の風にもう一度吹かれてみる。

      忘れていた何かが、少し見つかりそうな気がしています。

  3. はじめまして。

    ブログの題名に惹かれて、仕事中に読み始めたらなんだか泣けてしまって。
    今の私は空っぽでなんにもないので、当時の先生の気持ちがわかるような気がしました。

    こうやってご自分の心に向き合われてきたからこそ、今こうして人の心にやさしく寄り添えるあたたかいカウンセリングを行えるんですね。

    のび太くんのこの後の心模様、とっても気になります。続きを楽しみにしています。

    1. >りすさん

      はじめまして。
      コメントありがとうございます。
      とても嬉しいです!

      温故知新というか、原点回帰というか、そんなことを最近は思っていて。
      無くしちゃったものもあれば、得てきたものもあって。

      それでも僕らは後ろに戻ることは出来なくて、前を向くしかない。
      でもどこへ向かえばいいのかな・・。

      そんな風に僕自身が悩んできたからこそ、カウンセラーとして寄り添える所があるのかも知れません。

      ブログもぼちぼち書いていきますね。

      どうぞよろしくお願いいたします!

  4. こんにちは!
    なぜかエンチョーの駐車場で、久しぶりに先生が浮かんで
    こちらを読んでいます。。

    小説のように鮮明に
    私にもその時の風景や、学生の先生を感じました。
    先が早く読みたいです。お願いします!

    1. >風に吹かれてさん

      こんにちは。
      何故かエンチョーで(笑)。
      なんか嬉しいです!

      気持ちの湧いてくるままに書いてみたので、どんな反響があるかなと、ちょっと不安になっていたところもあるのですが、温かいコメントがいただけて幸せです。

      人生は後戻りは出来ないけれど、この先を創っていくことは無限に出来る。

      そう思えばそうなるし、あきらめたらそこまで。

      あの時、今をしっかり生きていきたいな、と思った。

      その気持ちを忘れないように、もしかしたら書きたくなったのかもしれません。

      またぼちぼち書いていきますねー。

  5. 私にもとある事にカチっとハマった瞬間があり、それに向けて進んでゆく事は正しく迷いがないと感じる感覚を味わった時期がありとても共感しました。
    先生の事だから、続きの下書きは何稿もあってボツになっているに違いないですね(笑)
    続きを楽しみにしています!

    1. >やましたさん

      コメントありがとうございます!
      お察しの通り(笑)、色々と試行錯誤して書いています。

      今回のシリーズ(?)は、自分の中から湧いてくる(当時の自分が降りてくる?)ものを捉えるとワクワクして書ける瞬間が始まるので、楽しんでマイペースにやっていこうと思っています。

      皆さまの心に、少しでも良い風が吹くといいなとも思いながら。

      今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

  6. 心葉さんのブログが好きで、いつもHP訪問しています。

    これまでのブログも、深くて勉強になってでも癒されて好きなのですが、今回のブログはさらにすーっと入ってきました。

    心葉さんもヒトなんだな…と、いつもとちがう安堵感がありました。

    続きもたのしみにしています!

    1. >JJさん

      コメントありがとうございます!

      今回、何というか、かしこまったことを書く気にあまりなれなくて、それならば自分の歩んできてた道のりを思いきって書こう!と思い立ちました。

      一応、今は開業カウンセラーという立場にはなっているけれど、元々は肩書も力もない、ただの人で。

      それは最初は誰しもがそうだったはずで、今も必死で頑張って、もしかしたらあがいている人もいるかもしれない。

      全ての人に共感してもらえるととても思えなくて、少数でもいいから、ちょっと響いてくれるといいな、と思って。

      『心葉』も自分らしくやっていきたいと常々思っているので、上手くいかないことは真摯に受け止めて、今後も歩んでいきたいと思います。

      今後ともどうぞよろしくお願いいたします!

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